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第9回 ジャン・シャルル・クルーアンさん

フランスの経営専門のビジネススクールHECを卒業後、経営大学院においてMBAを取得。フランスでさまざまな分野の経営に携わってきましたが、1998年、フランス食品振興会(SOPEXA)の日本代表として来日。ワインや食を通じて、フランスと日本をつなぐさまざまな事業や企画の場でご活躍のジャン・シャルル・クルーアン氏より、ワインとの関わりや食への想い、日本での生活を通して考えるワインについてお話を伺いました。

ワインとの出会い

第9回01幼い頃からワインと深く関わりがあるクルーアン氏。お母さまの実家は、15世紀からのワインメーカーでした。生まれて一、二週間した頃から、コトー・デクス・アン・プロヴァンスにある、セザンヌの絵画でも知られるサント・ヴィクトワール山の麓のブドウ畑で育ちました。幼少時代に過ごしたお祖父さまの家はワインカーヴ。1階がセラーになっていて、そこでワイン造りが行われ、2階が住居になっていました。毎日セラーを通って自宅に入るので、生まれた時からワインと共に成長されたのですね。4歳の時にはすでにワインを飲んでいたクルーアン氏は、現在ご自分のお子さんにも、美味しいワインを飲む時は、指先にワインをつけて味わわせているのだそうです。
クルーアン氏のお祖父さまはグルナッシュやシラー、サンソーを使用した赤ワインをメインに造っていました。クルーアン氏が特に好きだったのは、100%シラー種で造るヴァン・ド・ペイ・ワイン(地酒)でした。お祖父さまは2004年に97歳で他界し、現在、そのカーヴではワイン造りは行っていませんが、ワインカーヴと家は、クルーアン氏が引き継いでいらっしゃいます。ちなみにコート・ド・プロヴァンス・サント・ヴィクトワールは2005年にAOCを取得し、赤・ロゼの生産が許されています。ソムリエ認定試験の勉強の際にはチェックしなくてはいけませんね。

SOPEXAのお仕事

1990年から96年までパリ農業祭で全農産物コンクールのワイン審査員を務めていたクルーアン氏。現在はフランス食品振興会の日本代表として、日本で活躍しています。来日のきっかけについて尋ねると一言、「愛です」と。
クルーアン氏は来日前、子供たちを学校へ送迎するためのバス会社を経営していました。その頃、25年間フランスに住み、電話会社に勤務する日本人女性に偶然出会います。そしておつきあいが始まり、結婚。ところが、奥さまは東京転勤を命じられます。どうしようかと悩んでいたクルーアン氏に、友人から日本での現在のお仕事の誘いがあり、バス会社を辞めて1998年に来日。クルーアン氏にとっては、これが二度目の来日となりました。
「妻と共に生活するため日本に来ました。私にとって家族は仕事と同様、とても大切なものです。家族と共に生活できるために仕事をする。それが私の幸せです」
初めて日本を訪れたのは、学生時代の友人を訪ねて関西へ遊びに来た21歳の時。実はその時は、日本があまり好きになれなかったそうです。古い情緒豊かなお寺がたくさんあると思っていたのに、大都市が多く、蒸し暑い中、バスや電車で移動したり、とても大変だったのだとか。卒業後1年間に貯めたお金で訪問した日本ですが、物価は高く、お財布がすっからかんになってフランスへ帰国することとなってしまいました。今では「日本食も温泉も大好き」とお聞きして、私は一安心しました。

好きなワイン

第9回02クルーアン氏にとって、ワインは水のように常に身近にありました。ワインとの付き合いは長いのに、それほど詳しくは知らなかったと言います。というのも、仕事でレストランに行っても、自分が日々飲んできたワインしか分からず、ワインにおける深い文化についてはそれほど詳しくありませんでした。ですから、来日当初は自信がなかったそうです。
折りしも来日した98年は日本におけるワインブームのピーク時。クルーアン氏がフランスでは飲んだことのなかったものやグラン・クリュなど多種多様なワインが日本へ輸入されていました。そこで少しずつワインの勉強をし、日本に来てから本当のワイン愛好家となりました。
「小さい時は山や森に興味があり、自然科学専攻希望でしたが、結局は経営の学校へ進みました。卒業後は、ファッション関係やバス会社など色々な分野の仕事に従事しましたが、今、ワインに関わる仕事ができて、充実しています」

ワインとの付き合い方

第9回03料理と一緒にワインを楽しむのが好きなクルーアン氏。
「味わいがしっかりしているものよりも、料理とのマリアージュが楽しめるワインが好きです。ワインの一番の魅力は、料理を引き立て、料理を一層美味しくするということです。ロゼワインが好きで、特に私の生まれ故郷のワイン、プロヴァンスのロゼは大好きです。
特別な日ならば、1964年のシャトーヌフ・デュ・パプを飲みたいですね。私のバースデーヴィンテージで、グッドヴィンテージでもあるからです。ローヌ地方のシャトーヌフ・デュ・パプは、樽香やチーズにあるような複雑でとても良い香りがします。
そのほか、ロワールのコトー・デュ・レイヨンやボンヌゾーのオールド・ヴィンテージワインもいいですね。価格はそんなに高くないですよ。例えば、昨年と30年前とを比べても、それほど変わりません。酸のストラクチャー、複雑な味わいなど、本当に素晴らしいです」
クルーアン氏の好きなワインのお話をお聞きしながら、私も色々なワインの香りを想像してしまいました。
「フランス産ではありませんが、スペインのシェリー酒も好きです。シェリーはフランス料理にあるソーセージの前菜に合わせて、アペリティフの時にいただきます。
とにかく食べることが好きですから、その時のお料理に合わせたワインをいただくのが好きです」
フランスのお料理についても、おたずねしました。
「私は昼に一人でレストランに行くことが多いのです。どうして一人で行くかというと、私はフランス人で、日本の会社で働いている方々と昼食の時間が合わないからです。その時は、レストランのワインリストにある一番安いワインを選びます。そのレストランのソムリエが、そこに来た客が一番頼みやすいワインとしてリストに載せており、そのお店のメニューに合うワインであると思うからです。お客さまと一緒の食事だとそうはいきませんが。私はお昼の時間はゆっくり楽しみます。そして、午後はまたしっかりと仕事をするのです」
自宅でも食事はクルーアン氏が作ります。
「ワインの煮込みを作るときは、手ごろで美味しいワインを一本使います。煮込み料理のために開けたのだから、そのワインを料理と共にいただかなくてはと、お料理をしながら、一緒に飲んでいます。ドリンキング&クッキング&ドリンキング(飲んで、食べて、また飲んで)・・・(笑)。妻は1杯、私は3杯くらいの感じです」
多くの人々と接する機会があるクルーアン氏。人々が集まるような時、おもてなしの時は、普段あまり飲む機会がないジュラやサヴォワのワインなどを選ぶのだとか。
「あまり普段に飲まないようなワインをお客様に味わっていただくと、ワインが会話の話題になり、ワインが人と人との関係を作るようになります。会話が生まれ、会話がはずむようなワインを選びたいのです」

日本のワインと日本でのワインの味わい方

第9回04日本のワインもお好きなクルーアン氏。
「日本のワイナリーは、最近とても頑張っています。100%日本のブドウで造られたワインが好きです。甲州種100%とか、いいですよね。これからロワールのワインと日本のワインでパートナーシップを組む企画があります。どちらも小さなワイナリーそれぞれが頑張っているのが共通点です」
日本でのワインの楽しみ方、またお料理とワインについてのマリアージュなどについて、ご意見をいただきました。
「醤油を使う日本食なら、ポン酢を赤ワインで割るとか、蟹味噌にワインをちょっと入れても美味しいと思います。私は温泉が大好きなので、きりりと冷えたシャブリを露天風呂で飲むというのもお勧めします」
日本酒もお好きだというクルーアン氏。好きなのは「利き酒」で、色々な日本酒を楽しめる会があったら、是非参加したいそうです。日本酒の中では原酒や、純米酒など、お米の味がする日本酒がお好きなんですって。

メッセージ

第9回05「ワインの世界は未知数です。ワインについては知らなくても、飲めば飲むほど、様々なことに関心をもつようになり、自然に文化のことが分かります。ワインを愛する方は、ワインについて語るほかにも、毎年一度、バケーションにフランスのワイン産地を訪れ、ワイン生産者の情熱を現場で感じることをお勧めします」
私も、ワイン産地へ旅する機会があれば、ゆっくりと時間をかけ、ブドウ畑で造り手の情熱を、五感を最大限に使って感じています。
クルーアン氏の人生において、ワインはどんな存在なのでしょうか。
 「ワインがなかったら・・・あぁ、生きていけないですね(笑)。私は今の仕事、ワインや食に関わる仕事、日本にいること、すべてが天国と思っています。だからこの天国から落ちないこと(笑)が夢です。お金もうけとかでなく、家族が幸せで、楽しく過ごしたいというのが願いです」
『ワインの楽しみは、天国の入り口への鍵』というメッセージを色紙にいただきました。
私たちも天国の入り口への鍵を、これからもゆっくりと時間をかけて楽しんでいきたいですね。

プロフィール
ジャン・シャルル・クルーアン氏
フランスの経営専門のビジネススクールを卒業後、フランスの経営大学院にてMBAを取得。通信やファッション、運輸などの仕事に従事し、1990年から1998年までパリ農業祭の全農産物コンクールのワイン審査員も務める。1998年よりフランス食品振興会日本代表となり来日、現在に至る。

 

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