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つぶやき

第1回 辰巳琢郎さん

第1回01

「グラスのつぶやき」初回は、ソムリエ協会名誉ソムリエでもあり、TVドラマや舞台・映画などでご活躍の俳優、辰巳琢郎さんです。
「食いしん坊!万才」歴代レポーターや「嬉食満面晩餐会」の企画、海外旅行の企画など、多彩な活動を通し「食」と「ワイン」に関わりの深い辰巳さんに、興味深いお話をうかがいました。

ワインは、ビールや日本酒をなんとなく飲むように、自然に飲んでいたという辰巳さん。
はじめてワインを飲んだのは、いつかなぁ。
「もう時効ですが、小学生の頃でした。甘い“赤玉ポートワイン”が美味しかったですね」。
(注)“赤玉ポートワイン”はかつての国産ワインの銘柄名。“ポート”という名前は、現在はポルトガルでつくられたものにしか認められていません。
その後、ドイツワインが流行した頃は、口当たりのいいトロッケン(辛口タイプ)などをよく飲んでいたそうです。

91年、『食いしん坊!万才』のレギュラーになり、辰巳さんは日本全国を食べ歩きました。
番組の提供はキッコーマン。その系列のマンズワインの小諸工場を訪れ、初めて日本のワイナリーを知ったとのこと。
“ワインを食卓に”と、収録で日本の家庭料理や郷土料理が並ぶ席に、ビールや日本酒ではなく、ワインが置かれることが多かったといいます。
『日本ワインを愛する会』の副会長でもある辰巳さん。
『食いしん坊!万才』の収録を通じて、
「日本のお料理には、日本のワインを合わせたい」
と思うようになったそうです。

第1回02

実は私、金沢市出身です。
辰巳さんはご両親が石川県出身で、金沢にもゆかりがあり、“金沢冬まつり大使”を四年間務めるほか、映画『手紙』で金沢の大樋焼(おおひやき)の陶芸家役、NHK大河ドラマ『利家とまつ』では前田長種役などを演じています。
「金沢はやっぱり、鰤(ぶり)ですね。鰤の塩焼きと、白ワインを合わせたいな。赤ワインだと鰤の脂身をはじいてしまうでしょう。だから僕は白ワイン。そうですね、この間、新潟の岩の原葡萄園に行ったんですけど、そこのワイン『深雪花(みゆきばな)』の白なんかどうでしょう。白は確か、品種はシャルドネとリースリングだったかな」。
私自身は、『深雪花』の白ワインをまだ飲んだことがありません。赤ワインは飲んだことがあります。日本のワインでは、とても好きなワインのひとつです。
「『深雪花』には日本独自の品種、マスカット・ベリーAで造られている赤ワインもありますね?」
と私が訊ねると、
「『深雪花』の赤には、治部煮が美味しいと思いますね」
と辰巳さん。
『治部(じぶ)煮』は、鴨肉などに小麦粉をまぶして、お醤油ベースで、じぶじぶと煮る、金沢を代表する郷土料理です。やはり食通!思わずおなかがぐぅ~っと鳴りそうな答えが返ってきました(笑)。

岩の原葡萄園の2004年度収穫のマスカット・ベリーAを使った『新葡萄酒』が11月2日にリリースされました。辰巳さんが昨年9月に、所属する六本木男声合唱団のヨーロッパ公演でオーストリアに行った際、“シュトルム”と呼ばれる醸造中のワインに出会ったことが、この『新葡萄酒』を提案するきっかけです。
プチプチした発泡が残る、新酒(ヌーヴォー)の前のワイン、つまり日本酒でいう“中汲み”みたいなワインは、とても美味しく、この時期だけ街のカフェやホイリゲ(ウィーン周辺でよく見られる居酒屋のこと)で気軽に飲めるのだそうです。
「ワインは農産物だから、季節を感じて飲む、こんなワインがあったらいいな」
と思ったのですが、この“中汲み”ワイン、瓶に穴を開けて、醗酵による炭酸を抜きながら移送しなくてはならないので、日本には持って帰れません。
ワインブームと言っても、まだまだ足踏みをしている日本に色々なワインを紹介したいと、常に思っている辰巳さん。同じものは難しくても、ヒントを得て近いものを造れないか、という思いから、日本のワイナリー、岩の原葡萄園と共に、タンク1本分(ハーフボトルで約20000本)のみの試みで、この“旬のワイン”を造りました。
「食材は一年中あるものではないのだから、ワインもこの季節にしか飲めないものがあっていいと思うんです。『新葡萄酒』は甘みもあり、軽い発泡もあるから、冬の鍋、例えばてっちりとかしゃぶしゃぶのような“ちり”系ではなく、特に“すき”系のお鍋に合うんじゃないかな」。
辰巳さん自らもブドウを収穫し、粒よりをしている『新葡萄酒』。お鍋料理に合わせてみようと思います。

毎年、海外ツアーを企画される辰巳さんが、これまで訪れたワイナリーで一番面白かったのは、古代ローマ時代のポンペイの遺跡の中にあるブドウ畑です。フランスのブドウ畑も訪れたこともあるそうですが、イタリアワインの歴史の古さに深く感心し、ポンペイ時代に造っていたブドウ品種でワインを造っている“マストロベラルディー社”のワイナリーのブドウ畑を実際に見に行かれました。
一般公開していない畑だったので、塀に登って写真を撮ったり、ブドウの・・・(あわわわぁっ、オフレコでしょうか・・・)してきたそうです。
(詳しくは著書『イタリア嬉食満面』をどうぞ)
フランスのワイナリーももちろんですが、イタリアのワイナリーは、ワインの数は覚えきれないほど多く、各州、地域ごとに使用するブドウ品種もそれぞれ違うので、とても興味深いのだそうです。

「色々なワインを飲んできて、だんだんワインの味が分かると、日本のワインに行き着く」
という辰巳さん。世界的主要品種であるカベルネ・ソーヴィ ニヨンやシャルドネは、味がしっかりしていて分かりやすい。それに比べて日本の甲州種は、とても繊細で味が分かりにくい。そのため、シャバシャバしている とか水っぽいといわれてしまうけれど、その味の中に、繊細な日本人の舌でしか味わえない旨みがあるのですね。
確かにワインのコンクールでは、日本のワインは評価が低いかもしれません。沢山のワインを飲み比べるようなコンクールでは、アタックの強いものが高得点になりがちです。
「ワ インは、食事に合わせて、どういうバランスがいいか考えながらいただくものだと思います。最初のうちは刺激を求めてワインを飲んでいても、味は一つの方向 性だけじゃないことが分かってきます。京料理の繊細な出汁の味が分かるように、日本のワインは『繊細さ』で勝負をしてほしいと思います。そういう意味でも 日本のワインを応援していきたいですね」。
食事と共に、色々なワインを飲んで、比べて、どんなワインが自分に合うかを探してほしい、という辰巳さんに、ワインへの、また日本のワインへの愛情を感じました。

第1回03

辰巳さんに少しだけ、ワインを飲むときの姿勢について聞いてみました。
「僕ができないと思うのは、おすし屋さんで最初からグラン・ヴァン(ボルドーの1級格付シャトーのワインなど、最上級クラスのワインのこと)を飲むこと。
お寿司にもワインにも悪いし、タバコをスパスパ吸っていることと同じくらい失礼な気がします。
あと、レストランで音をたててテイスティングすること。
シャンパンでも水でも、グラスをぐるぐる回す人もいますよね。
基本的には自由に楽しめばいいと思いますが・・・」。
辰巳さんのワインに対する姿勢に、私もすごく共感しました。

 辰巳さんにとって、ワインは「大勢で、食事と共に楽しむ」ものでした。
一人でワインを飲むことはなく、独りで飲むのだったら、もっと強いお酒を召し上がるのだそうです。
人が集まり、美味しいものがあり、ワインがあると、にぎやかになり、雰囲気が和らぎ、みんなが話しやすくなります。
「6人いれば6本くらい、8人いれば10本くらい、色々なワインを飲みます。時にはグラスをいくつも並べて、どれが食事と合うだろうかといいながら、楽しみますね」。
辰巳さんを囲んで、美味しい食事が並び、人々がワイングラスを片手に楽しい笑顔で素敵なひとときを過ごしている様子が浮かんできます。

辰巳さんは、ご自身で晩餐会を開いたり、食事会を仕切ったりすることが多いようですが、まずはじめに“メンバー”がいて、次に“食事”があり、“ワイン”は3番目なのだそうです。だから、今日は、どんな人たちと、どんな食事をしながら、こんなワインを合わせようかなぁ、と考えるのが好きなのですって。私もそんなメンバーの中に入りたいなぁ、なんて心の中でちゃっかり思いながら、辰巳さんがどうやってワインを選ぶのかを訊ねてみました。
「一緒に食事をする人がワインの初心者なら、やっぱりシャンパーニュを選ぶでしょうね。シャンパーニュは食事を通しても楽しめますから。
ワインを勉強中なら、勉強しているレベルもにもよりますが、まずその人の好みと、いつも飲むワインを聞いて、そうじゃないものを選びます。その方が新しいワインとの出会いがあって、面白いでしょう?
ワイン好き同士なら、ブラインドテイスティングも面白いですね」。
では、私にはどんなワインを選んでいただけるのでしょう・・・そんな機会が巡ってくることを夢見つつ。
辰巳さんは以前、飛行機の旅で、客室乗務員の方に機内の5~6種類のワインを出され、味をみてくださいと試されたことがあるそうです。事前にワインリストが渡されているので、アイテム候補は分かっているのでしょうけれど、すべての種類のワインが別々のグラスに用意されて運ばれてきた光景を想像すると驚きです。私もよく友達とブラインドテイスティングをしますが、辰巳さんのように空の上でブラインドテイスティングするような経験は、きっとできないでしょう。

「ブラインドテイスティングは、ワインをしっかりと味わおうとしますし、答えを外しても新たな発見があるので、面白いですね。
ワインは出会いです。色々なところに行って、色々な人に出会い、色々な料理があり、色々なワインがある。これからも、どんどんそういった出会いの幅を広げていければと思っています。
ワインを飲むときは、1種類で済ますことはほとんどありません。5~10種類は飲んでいるかな。食事と同じように、流れを作って飲むのが好きなんです。気分を変えて、料理とのマリアージュを楽しめますよ」。

そんな辰巳さんに、無理を言って、どうしても一本だったら、どんなワインを選ぶのか訊いてみました。バリック(オークの新樽)のきいていない白ワインや、熟成したバローロもお好きだそうですが、おすすめは辛口のロゼワインでした。ボルドーやイタリアのプーリア州のものがお勧めとか。どんなシチュエーションでも、幅広く合わせやすいのだそうです。天ぷら、串カツにもよく合うとのこと。ロゼワインの向こうにいらっしゃるお相手はどなたでしょうか。

辰巳さんのワインセラーには、1000本以上ワインがあるそうです。
「どんどん飲むし、また旅に行って買い足しています。お店で買うこともあるし、オークションで入札することもあります。エチケッ(ワインのラベル)トは取っておくこともあるけど、あんまり整理していないですね。生まれた年の58年のワインは手頃なものを沢山持っています」。
そんなに沢山あるワインの中で、大切な人と飲みたい、愛する人と飲みたいワインはどれなのでしょうか、と訊ねました。
「どんなワインを飲みたい、と考えたことがないんです。食いしん坊なので、どうしても食べ物が先になってしまうからでしょうね」。

ワインは気がついたら自然に飲んでいたという辰巳さん。辰巳さんにとって大切な人々が集まり、お料理が並ぶ瞬間、その瞬間に、辰巳さんの運命のワインは登場するのではないかしら・・・。
ワインの幅の広さ、種類の多さ、色々な味わい、さまざまな運命のワイン。さまざまな人生を演じることができる、俳優辰巳琢郎さんらしいなぁと思いました。
「色々なワインを飲んでほしい」というメッセージとやさしい微笑みが、辰巳さんの好きなやわらかく熟成したワインのイメージにつながるのではないかと思いました。

第1回04

最後に、俳句もされている辰巳さんに、お願いして、岩の原葡萄園を詠った俳句を色紙に書いていただきました。
「上越の、石蔵古りて、秋思かな (道草)」
※道草は俳号です。
石蔵とは、明治31年建造の岩の原葡萄園第二号石蔵のことで、機能するワイン蔵としては日本最古のものだそうです。
是非、『新葡萄酒』を飲みながら、この歌を思い浮かべたいと思います。

 次回はファッション&ライフ コーディネーターの宇佐美恵子さんです。お楽しみに。

プロフィール

辰巳琢郎(たつみ たくろう)

1958年 8月 6日戌年生まれ。
1984年 京都大学文学部卒。在学中は関西一の人気劇団『そとばこまち』を主宰し、役者としてだけではなく、企画、演出の分野でも活躍。
卒業と同時にNHK朝の連続テレビ小説『ロマンス』でデビュー。ドラマ以外にも、幅広く活躍。
1991年 『くいしん坊!万才』で全国を食べ歩く。
1999年 <ル・スヴェラン・バイヤージュ・ド・ポマール>ワイン騎士団の騎士号を受賞。
2000年 <メドック・グラーヴ・ソーテルヌ・バルザックボンタン>ワイン騎士団の騎士号を受賞。
2001年 日本ソムリエ協会の「名誉ソムリエ」に就任。焼酎大使(鹿児島県)受賞。
2002年 由布院ワイナリー文化賞受賞。<シュヴァリエ・ドゥ・タートヴァン>ワイン騎士団の騎士号を受賞。<コマンドリー・ドゥ・ボルドー>ワイン騎士団の騎士号を受賞。
2003年 名誉利酒師酒匠受賞。
獅子座・B型

著書:『辰巳琢郎のおとなのドリル』(旬報社)
    『青春のヒント』(学研)
    『タクロウのこれだけ英単語』(扶桑社)
    『イタリア嬉食満面』(文芸社)
    など。
オフィシャルサイト:http://www.tatsumitakuro.com/

 

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